キーン、キーンと、硬く締まった炭の響きが、森に広がっていく。
自然の中で行う炭焼きに、同じ瞬間はない。山の原木の状態も、窯の状態も毎回違う。何千・何万という反復にわずかな違いを見つけ、膨大な身体知を蓄積する。「炭焼き一生」と、職人は言った。
窯に一度火を入れたら、中の状態は見えない。
煙道から昇る”煙の匂いや色”で、原木の状態を判断し、送り込む空気の量を調整する。「何十年もやってきたからわかる。”鼻が覚えてんねん”」と職人の原正昭さんは言う。炭焼きは「鼻で舵をとる」。
炭焼きの映像を作りたいと思ったきっかけは、今年1月に制作した「日光の天然氷職人」の時だった。氷職人の山本さんと森を歩いて時、朽ち果てた窯跡に遭遇した。戦争から復員した男性が、一人山を転々としながら炭を焼いていたという。戦時死亡通達が出て、帰ってきたときには既に奥さんは別の男性と暮らしていた。
古くは鉱山でも大量の木炭が使われ、多くの炭焼きがその周辺に暮らした。山中で生涯を終えるものも多く、窯跡のそばに自然石の墓標が残る。
和歌山にも、多くの炭焼きがいて、山のあちこちから白煙があがっていた。炭窯と小屋を建て夫と炭を焼いた女性たち、子どもたちも炭俵を担いで長い山道を歩いた。仕事が終われば、酒を飲み、炭焼き談義に花が咲いた。
「今まで教えてもろうた人らは、もうほとんど向こう行ったけど、その人らが、「踏ん張れ、踏ん張れ、しっかりせぇ」って言いやるような気すらぁ。ちゃんとした昔の炭焼き残す仕事せぇよってよ。」と、正昭さんは最後に言った。
毎回撮影していて思うのだが、職人は、形なきものと対話し、見えない世界に接続している。彼らの背後にある時間と空間は、とてつもなく長く、広い。
ぜひ、炭の、森の、山に生きた人々の響きを感じてください!共に制作してくれたみんなに、心より感謝
音楽は、このシリーズをずっと担当してくれている上畑さんが炭琴を自作して作曲しました。サウンドの高梨さんがこだわった窯の中にいるような低音と共にお楽しみください。

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